6AS7Gppアンプ-1




1. 概要
業界で「ねこまたぎ(ネコでさえまたいでいく、といわれる程マズイ魚、という意味だそうだ)」といわれる「6AS7G」を使ったアンプを製作しました。
この真空管は、「工業用の精密電源」用が主な用途で、電圧変動の少ない電源を供給するための装置に使用します。
本来の用途が「電源用」のため、内部抵抗が低いのが特徴で、 外観上も大柄なダルマ型のガラス管内に2つのエレメントが封入されています。
この真空管が「ねこまたぎ」といわれるのは、規格上、
「プッシュプルで使ったときの入力電圧が255Vp-p」となっていることにあります。
通常の方法では到底得られないような高い電圧を必要とするので、前段をどうするか、で行き詰まるのです。
この扱い難い6AS7Gを使って、
「ローμトライオード、2段ダブルプッシュプル(無帰還+低利得)」を実現するにはどうすれば良いかという試行機です。
初段は定番となった6SN7を起用します。差動アンプで初段から位相反転します。
この後、トランスを使って昇圧して、出力段を駆動します。

2. 上面


前面に真空管をズラリと並べるのは、従来通り。
ただし、全部の真空管が2つのエレメントを封入した双三極管、双二極管なので、5本で済んでしまいます。
左端に初段管の6SN7を2本。中央に大柄な6AS7Gが2本並び、右端に整流管6BY5GAを配置します。
後ろに並ぶ箱は中央2つが出力トランス、右端が電源トランスで、その前の小さい箱は一見、 電源のチョーク(リアクトル)に見えますが、中は小型バンド型のチョーク2個とFETによるリップルフィルタの 基板が入っています。
左端の2つの小さい箱は昇圧用のトランスの一部を収納しています。
ブロック型のコンデンサを表に出さないスタイルも従来通り。

3. ケース


前作、VT25App、EL34ppと同じ、タカチ電機のSRDSL9型を使用しています。
(鈴蘭堂の製品をそのままタカチ電機が引き継いで製造販売しています。)
上面寸法は400×205。高さ40mmで、スリムな印象で「格好」は良いのですが、内部の造作に苦労しました。

4. 出力管6AS7G


6AS7Gの規格表に記載されたA級プッシュプルの動作例は下表の通り(一部抜粋:各エレメント毎)
プレート電圧250V
0信号時プレート電流50mA
カソード抵抗2500Ω
グリッド電圧-125V
出力10W

最大定格は、
プレート電圧=250V
プレート損失=13W
となっていて、上記表の通りに作動させると、プレート損失は12.5Wとなって、最大定格ギリギリです。
プレート電圧も最大定格ギリギリです。
真空管が消耗品の時代なら、これでも良いでしょうが、今時、こんな過酷な動作はさせられません。
そこで、長寿命を考えて、ディレートします。
プレート損失=9Wぐらいを狙って、再検討して、グリッド電圧(バイアス)=-105Vに設定します。
これから、順に逆算していくと、インターステージトランスでの昇圧を2.5倍に見込むと、 少し感度は低くなりますが、6SN7の差動アンプで駆動できそうだ、という見込みがつきます。
NFBをかける利得余裕はありませんから、潔く!最初から「無帰還」です。

画像は、今回用に用意したRCA(Radio Corporation of America)製の6AS7Gです。
1本に2個のエレメントが入っているので、2個の特性が揃っていないと「アウト!」なのですが、 実測値は良く揃っていました。
使用上の注意として、
カソード抵抗による自己バイアスとすること、
上下のカソード抵抗を共通にしないこと、
グリッドリークはなるべく小さく(500kΩ以下)すること、
(「魅惑の真空管アンプ」(故浅野勇氏著)に解説があります。)
そして、この種の低rp管は、横倒しにして使用しないこと、
カソード、グリッド、プレート、各電極が接近しているので、横倒しにして通電すると、 熱膨張して弛んだグリッドがカソードに触れてしまうことがあります。
調整時、横倒しにしない注意が必要です。調整時には裏返しにして作業します。

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